子どもの立場に立つ不登校支援⑩

「昼夜逆転の生活」にある子どもの思い

 子どもが不登校をすることで、周りの大人が不安になるのが「昼夜逆転」の生活である。「学校を休ませる」ことは認めるが、「昼夜逆転」の生活はしない方が良いという意見は多く聞かれる。専門家の中にも「学校を休ませることは良いですが、昼夜逆転の生活にならないように気をつけて下さい。」というアドバイスをする人は少なくないようである。そのため、不登校支援の内容(目標)に「生活リズムを整える」を入れていることも多い。

ところで、不登校をしている子どもにとって、「朝」という時間はどのような時間なのであろうか。
 朝、目が覚めると、「学校に行こうか、どうしようか。」と悩みが始まる。「みんな学校に行っているのだから、自分も行くべきだ」と葛藤する。それでも、起きることができない自分を「こんな自分ではだめだ」と責めてしまう。そのうちに、家の人が部屋まで起こしに来る。重い体を引きずりながら起きて、なんとか食卓に着く。「今日、休みたい。」という言葉をなかなか口にすることができずに時間が過ぎる…。体温計で測ってみても、熱はない。

 「どうするの?学校に行くの、行かないの?」と親が聞いてくる。だんだんお腹が痛くなってくる。やがて、親は「今日は行けないなあ。」とため息をつく。学校に休む連絡をする親の声を聞くと、自分が情けなくなる。部屋に戻りふとんの中に入るが、決して楽にはならない。「このまま消えてしまいたい。」と心でつぶやく…。

 このように、不登校をしている子どもにとって、毎日の「朝」は恐怖の時間なのである。
 そうすると、朝のつらい時間は、寝ているうちに過ぎるのを待つようにする。そうでもしないと心が壊れてしまうのである。いくら周りの理解があったとしても、学校に行けない自分を許すことができず、苦しくて耐えられないのである。

 「夜」は、世の中全てが動いていないために、安心して自分の好きなことができる子どもが多い。(中には、真っ暗な夜が自分を呑み込むようで恐怖に襲われる子どももいる。)まず、「学校に行こうか、どうしようか」と悩む必要がない。そうすると、自分を責めずにすむし、周りに気を遣わなくてよい。不登校をしている子どもの多くが、安心できる時間が「夜」なのである。「…しなくてはならない」ことに縛られる朝の時間と違い、「…したい」を楽しんで自分を取り戻すことができるのが夜の時間なのである。

 「昼夜逆転」のままでは不登校を続けるので、「不登校をなおすには、まず、朝は起こして生活リズムを壊さないようにすることが大切である」と大人は考えるが、それは子どもの目線で見ると大きな錯覚である。前述したように、「昼夜逆転」は不登校をすることで葛藤が高まった「結果」であり、不登校の「原因」ではない。だから、仮に「昼夜逆転」の生活をなおしても、子どもは学校に行くとはならないのである。また、「昼夜逆転」の生活に慣れていると怠け癖がついて、いざ学校に復帰する時に体がいうことをきかないのではないかと心配することもある。しかし、子ども自身が「学校に行こう」「学校に行きたい」と思ったり、何かやりたいことが見つかると、「昼夜逆転」の生活を簡単にもとに戻すことができる。