子どもの立場に立つ不登校支援⑧

子どもが求めている居場所とは

 ユミコは、小学生の時にいじめをうけ、不登校になった。ユミコの母親は、最初はなんとか学校に行かせようとしたが、苦しむユミコを見て「このまま学校に行かせることは、ユミコのためにはならない。」と考え、無理に学校に行かせることをやめた。そして、自宅をユミコの「居場所」とするようにし、いっしょにひたすら漫画を読んだ。ユミコのもとに一人の友だちが遊びに行くようになった。その子は、クラスであまり居場所がないおとなしい子どもである。ユミコといると、その子もホッとするらしい。

 そのうちに、小学1年生で不登校となったカズミがいっしょに過ごすようになった。また、小学6年生の不登校のミチルが通うようになった。放課後になると、いじめは受けていないが、なんだか一人ぼっちになることが多い子どもも通うようになった。人数が集まっても、その居場所(自宅)では、ひたすら漫画を読んだ。

 誰かがつぶやく。「暇やなあ。何かする?」「温泉に行きたい」「じゃあ、町の銭湯めぐりをしよう。」というぐあいに話がまとまると、子どもたちは自転車を飛ばした。やりたいことがみつかるとみんなで行動し、それが終わると、また漫画…。漫画を読みながら、「劇団」「キャンプ」「基地作り」「自分たちの運動会」…と子どもたちの活動は多岐に及んだ。

 ユミコの経験から居場所に必要なことが二つ読み取れる。

 一つは、何もしないで良いことである。
 不登校の子どもたちの中には、「何もしないことをしたい。」と言う子どもが少なくない。その言葉には様々な思いが込められていると思うが、そこには「学校に帰すような下心を持たないでほしい。学校に行く時は自分で決めるから。」という思いがある。ユミコの母親は、「この子をどうにかしよう」ということに自分自身も疲れ、純粋にユミコとの時間を楽しんだ。子どもの将来を心配するよりも、今のユミコとの時間を大切にしようと考えた。そのために、学校へ復帰するためのことではなく、ユミコが好きな漫画を一緒に読んだ。一緒にいる母親の心が楽になると、ユミコの心も楽になった。「何もしないでもここ(家)にいて良いんだ」と思えるようになった。

 二つ目は、友だちの存在である。その友だちは、学校に復帰をさせるための友だちではない。「かわいそうな?ユミコのためになんとかしてあげたい」という優しくしてあげる側にいる友だちでもない。学校に行っていても不登校をしていても、一緒に喜び、一緒に楽しみ、一緒に悲しんでくれる友だちである。その存在は、ユミコの心に安心を生んだ。

 そうして見ると、大人が「居場所」として用意している所は、本当に子どもにとって居場所となりえているのであろうか。