子どもの立場に立つ不登校支援⑪

不登校と(社会的)ひきこもり

 「不登校の子どもが、将来ひきこもらないようにするにはどうすれば良いか」という声を聞くことがある。不登校からひきこもりにならないように予防をすることは、本当に必要なことなのであろうか。
 斎藤環という(社会的)ひきこもりについて有名な精神科医がいるが、斎藤氏は予防を考えることを否定している。

 まずは「予防」という発想をできるだけ捨てて下さい。そもそも思春期の事例について、なにかが起こることを完全に予防することは不可能です。「親にとって望ましいイメージ」を子どもに押しつける試みはほぼ必ず失敗に終わるでしょう。それでなくても、悪い兆しが現れるたびに、それを打ち消そうと躍起になることは、結果的に周囲が振り回されることにつながります。
 先に起こるかもしれないことを予測しすぎることからくる不安は、しばしばご本人にも影響することになります。予防を考えるよりは、ご家族全体の雰囲気がご本人の心の負担を軽くするように対応することが、結果的にもっとも望ましい予防効果につながると思います。(「ひきこもり救出マニュアル」PHP出版所より引用)

 その上で、斎藤氏は不登校の子どもが社会的ひきこもりとならないために、同世代との関係をつなぐ必要性を主張している。そして、対人関係を経験するのに、学校はとても重要な場所であるために、あっさりと学校を否定できないと言う。斎藤氏のこうした「同世代の対人関係の必要性」をいう指摘は、思春期を迎えた不登校の子どもの心理の一面を言い当てていると思う。中学生や高校生の子どもの中には、「とにかく誰かと話をしたい」「友だちと一緒にいたい」「放課後に遊ぶ約束をしたい」「部活動に行きたい」と切実に思っている子どもがいるからである。

 ところが、学校関係者の中には、不登校の子どもが放課後に友だちの家に遊びに行ったり、部活動だけに参加していることに対して否定的な意見を言う人がいる。「授業を受けていないのに、部活動だけに参加をすることはどうか…」という意見などである。登校している他の子どもとの関係でそうした考え方になるのであろうが、斎藤氏の言う「ひきこもりにならないためには同世代との対人関係をつなぐ必要がある」からみると、皮肉にも不登校の子どもをひきこもりへと追い込んでいく役割を果たしていることとなる。

 放課後に友だちの家に遊びに行ったり、放課後の部活動だけでも参加をして仲間と過ごすことは、不登校の子どもが(社会的)ひきこもりにならないためには大切なことなのかもしれない。ひきこもりだけでなく、子どもが学校へ復帰する面から考えても、同世代の子どもとのつながりは大切であると思う。勿論、本人が友だちを求めているという場合に限ってではあるが…。本人が求めてもいないのに、将来ひきこもらないように同世代の人とつなぐなどということは意味をなさないばかりでなく、そうした大人の勝手は考えが本人を追いつめていくことになる。